NHKアナウンサー:三上たつ次氏は、私のエッセイに新しい息吹を毎回与えてくれる。
画竜点睛の点にも値すると云っても過言ではない彼のその朗読の世界・・・。
・・・・音声がお伝えできずに残念だが、エッセイのみご紹介。
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"季節のエッセイ" 「七姫伝説」 七月/宇佐美志都
あなたは、「七姫(ななひめ)伝説」をご存知ですか?
夏空では、伝説は伝説でないのかも知れない・・・。
そんな夏への期待感を抱きつつ
私も知らなかった、七人の姫の伝説を
七月のこの明けの明星のひと時、あなたにも少し覗いていただければと。
あなたもきっと彼女の名前、ご存知かと思います。
小野小町・・・
平安時代の絶世の美女として伝えられる彼女。
六歌仙の一人とし、百人一首に、唄も名も残した美女でしたが、
晩年、旅の疲れのまま、最期を遂げたといいます。
そして、次ぎの彼女の名の響き、耳にした事はありましょうが、
その正体を知る人は少ないかと思います、静御前・・・。
平安末期から鎌倉時代、源義経の寵愛を一身に受けた彼女。
しかし、兄の頼朝に義経が対立し、彼女は鎌倉へ送られます。
そこで義経の子を産むも、男児故に、子は殺され、
彼女も二十歳で生涯を遂げたそう。
三人目は、あまり聞きなれない皇后様、間人皇后(はしひとこうごう)。
聖徳太子の生みの母で、飛鳥時代を生き抜いた女性です。
都の戦乱から太子と共に、逃れたのが丹後。
この地域には、彼女への鎮魂の意を込めて、彼女の名の地名が今もあります。
それから、安寿姫。
愛嬌ある名のその姫は平安時代、奥州の領主の娘でした。
無実の罪で流された父に会うための道中、弟と、森鴎外の小説でも有名な豪族『山椒大夫』に捕らえられ、過酷な労働の日々が始まります。
自分の命を懸けて、どうにか弟だけは逃がし、本人は命を落としたと伝えられています。
五人目にご紹介する彼女は、教科書で習ったご記憶もあろうかと思います、
細川ガラシャ。
明智光秀の娘で、本名・玉。
戦国時代、実家と婚家の間で悩み苦しんだ彼女の辞世のことば・・・
「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」
この唄の歯切れの良さ。この唄に性格を感じずにはいれません。三十八歳で自刃。玉からガラシャへの改名は、悲運の時にキリストの教えを光と思っていた事に由縁しての事。
そして、今年の夏空にも一番優雅に泳いでいるのではないかと思うのが、
羽衣天女。
八人の美しい天女が水浴びをしている所を見た老夫婦が、
一人分の羽衣を隠してしまいます。
羽衣を無くした彼女は天に帰れなくなり、その老夫婦の幼女となり
稲作・養蚕などを伝承するも、ある日追い出されました。
七人目の姫の名は、乙姫。
五世紀頃の話です。釣りに出ていた漁師、三日三晩何も釣れませんでした。
竿を上げるとそこには亀。
亀は乙女の姿となり変わり、二人はともに暮らしました。
・・・が、故郷を懐かしがり帰ってしまう男。
二人でずっと暮らしたかった乙姫が、裏切り者の彼に土産として持たせた物が「浦島太郎の玉手箱」だったとか・・・。
「七姫伝説」という言葉をはじめて聞いたのは、この夏の訪れを感じた頃・・・。
「姫」という響きから、もっと雅な伝説、神話であろうと思っていました。
夏の期待感を併せ持って聞き入ろうとしていました。
現在、“姫”という呼称は、高貴な人の娘や妃に使われていますが、
古代では、“姫”は、一般女性に広く使われていた言葉のよう。
よって、この姫たちの一生は、当時の女性一般の生き方の例えなのかもしれない・・・・と思えてなりません。
歴史年表は、ともすると男子たちの血を流した出来事ばかりを勇ましく刻むことを主とし、後世の私たちに伝えられています。
時代時代の中で、自分を貫いた女性達の御霊が生き続ける
夏空に今夜、あなたも心を向けてほしい・・・と願います。
そして、日本の空の下(もと)でも、海を渡った国の空の下でも、
この伝説を繰り返さない為に、いま、何を想えばいいのか・・・。
七夕、お盆を迎える夏空には、私たちは、目をつむり、手を合わせたし。
そして、七姫達がいつの日にか、私たちのこの合掌の念に微笑んでくれたならば、そのこぼれた微笑みの一雫を、夜空から浴びて、浄化されたいのです。
七月の空は、私たちの永遠の夢の神話「織姫・彦星」の住む空。
空に幸あれ、地にも幸あれ。
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