今年度もご高覧有難うございました。年度の最後位は、
少しはイイ処見せようと思います!
名高い、
(株)タナベ経営 もちろん、ご存知の方も多いかと存じます。
なんと!記者の方が、本ブログを有り難くも
(お恥ずかくも...)御高覧下さっておりました。
何事も、自分が気付かない所で、見てもらえているという事でしょうか。
「THE EAGLE」3月号/宇佐美本店
Traditional Standard
「価値の継承」を続ける企業たち古くは壇ノ浦の合戦にその名を残し、水運陸路ともに日本文化の要衝となってきた関門海峡。近代日本を形成する橋頭堡の役割も担ったこの地で、四代にわたって醤油醸造を手がけてきた宇佐美本店。プロフェッショナルの調理人が認めた確かな味わいを、広く家庭料理にも浸透させようと挑戦し、110余年に及ぶ醸造家の遺伝子を新たな姿で発露させようとしている。
1.<Reportage>
★「best of both worlds」で 醸造家と書家の遺伝子を融合★
〜〜プロの板場が評価する味を 家庭用商品として新発売〜〜
「あなたが年賀状を百枚書いても、受け手にとってはその一枚しかない。そのことを肝に銘じておきなさいと、亡くなった母から子どもの頃に教わりました。宇佐美の醤油も、百分の一ではなく一本のうちの一本であるように、いつも心がけています」
そう語るのは、二〇世紀を目前にした一八九六年の創業以来、醤油醸造を続ける宇佐美本店の四代目・宇佐美志都さん。戦後、拠点を小倉に移して北部九州や中国エリアを中心に、醤油やポン酢といった業務用調味料を、割烹や料亭など料理のプロフェッショナルの板場に供給し続けてきた経営の舵取りを、三年前に実父である先代から受け継いだ。「父は東京農業大学出身で、生粋の醸造家。目先にとらわれない経営が、良かったんでしょうね。プロの板場さんに評価される味にこだわって、業務用に専念してきました。信頼という大きな財産を、私は引き継がせてもらったと思っています」。
百十年目の節目を迎えた二〇〇五年、社長に就任した宇佐美さんは新たに、業務用以外に家庭用商品の開発に着手。小売事業を別法人化し、全国に向けて「宇佐美本店の調味料」を発信しようとweb通販をスタート。同時に自ら販売小売店に足を運び、販路開拓にも乗り出していく。今、首都圏や福岡県内の百貨店やスーパー、食料専門店、羽田・福岡の両空港など、着実に取扱先は増えている。ただ、そのプロセスには譲れないこだわりもあった。
「店を選ぶ、と言うとおこがましいですが、自分がずっとそこにいても『楽しい』と感じられる店かどうか。つまり、自分が幸せな気分になれることを基準にしました。お客様にとって手に取る商品の価値とは、味の良し悪しはもちろん、店のポリシーや陳列棚の雰囲気、店員さんの受け答えを含めた集大成のもの。私たちが本当に伝えたい思いを共有し、商品を可愛がっていただけるようになりたい、と」
また、web通販のお客様には、宇佐美氏直筆のはがきで御礼のメッセージを添え、店頭販売の商品にも感謝の気持ちを綴った短冊を同封している。「数だけを見れば商品が一つ、動くことに変わりはありません。でも、その一つにこそ想いを込めたいんですよ」。封を切った瞬間の喜びを願った、お客様への文通とも言えるこのメッセージは、独り暮らしを始めたわが子の暮らしを心配して、何かと荷物を送り届ける母心にも似ている。その想いが届いているのだろう、短冊を入れ始めてから店頭販売での商品回転率は、着実に右肩上がりを続けている。
〜〜個食の現実に小瓶で商品化し、危機を脱した「和」の調味料〜〜
「代々初代」をモットーに、経営者として新事業に挑む宇佐美氏にはもう一つ、書家としての顔がある。幼少期から母の指導のもと書に親しみ、二〇〇二年には東京国際フォーラムの記念イベント『Tokyo Art Jungle』で、山手線の車両内に作品を展示。経営の最前線に立つ今も定期的に個展を開催し、精力的な作家活動を続けている。
その類まれな才能は、経営面にも余すところなく発揮されている。味付けポン酢醤油『月想ひ』、二段仕込みのさしみ醤油『むらさきの夜』、本橙百果汁酢『恋の雫』など、家庭用新商品のラベルにはすべて、自ら揮毫した書を採用。また、ネーミングにも作家の感性が活かされている。『月想ひ』は「月想ひ、あなた想ふ」をコンセプトに、和歌に詠まれる月のように、何かの想いを重ねた存在となっていく願いが込められている。
「業務用も家庭用も、味わいは一緒。もともと橙は宮内庁御用達の周防大島産に限定し、英彦山系の伏流水を使うなど、素材にはこだわってきましたし、その本来の味わいを引き出していくのが、私たちの調味料。その魅力を、もっとわかりやすく表現したパッケージとネーミングにしたかったんですよ。旅には出発前と旅行中、そして旅行後の三つの楽しみがあると言いますが、食事も同じ。食べる前、食事中、食後、それぞれに楽しみがあっていい。食べる前からわくわくするような『食のストーリー』がつくれたら、最高でしょう」
もちろん、新商品が軌道に乗るまでには反発もあった。特に、長年のつきあいがある業務用商品の顧客からは、家庭用商品の150mlの小瓶を手にして「こんなサンプル瓶みたいなもので、御代をいただくなんて。誰が買うのか?」といった厳しい声が相次いだ。「昔からの関係者は、父を含め誰一人として賛成する人はいませんでしたね。ただ私なりに、核家族化を超えた個食化などを現実として受け止め、それに対応していかないと和の調味料が選ばれなくなってしまう、という危機感がありました。独り暮らしの人が一升瓶で醤油を買うことなんて、あり得ないでしょ。そこを決断して第一歩を踏み出せたことは、経営の指針として大きな前進だったと思っています」。
今、家庭用の一番人気はその150mlの小瓶タイプだ。『月想ひ』が四割、『恋の雫』が三割、残りの三割は醤油という売上構成で、店頭では女性、web通販は外食で味をしめた男性顧客を中心に売上げを伸ばしている。また、最近は日本が世界に誇る豪華客船「飛鳥」の船内や有名ホテルのレストランでも利用されている。
「小売を始めてから、これまでにない新たな縁が生まれています。それまでは『和』の世界だけの調味料でしたが、鉄板焼きやステーキなど『洋』の世界でも数多くの支持をいただけるようになって。肉料理など洋食でも、さっぱりとした味わいを好む方が増えているのも追い風になっています」
〜〜二つの世界が引き立て合い、最高の輝きを創り出す「互補」〜〜
経営者と書家、二足のわらじを履く宇佐美氏には、心に残る言葉が二つある。一つは「互補」、もう一つは「best of both worlds」。いずれも、知人から教わった箴言だ。
「両方あるからできない、と考えるのではなく、二つの世界がお互いに引き立て合いながら、最高の輝きを創り出していくということ。経営には資金や人材、生産力、書は紙幅という一定の枠がありますが、その制限があるからこそ溢れてくるエネルギーもあります。伝統を重荷や制約と考えずに、後ろ盾としてそこから漲ってくるものを自分の力にできるか、できないか。それが今、私が立つポジションで取るべき姿勢なんでしょうね」
醸造家である三代目と書家の四代目、その遺伝子の融合もまた「互補」であり、互いの良さを引き出し合う素材と調味料の関係も、「best of both worlds」の輝きを体現していると言えるだろう。
「昔はどの地域にも一軒、造り酒屋や味噌・醤油の醸造家があって、競合もなく地域コミュニティの中心的な役割を確立していました。ただ、二十一世紀の現代は莫大な広告宣伝費を使うナショナルブランド(NB)の大手メーカーが君臨し、全国どこへ行っても同じ商品が手に入る時代。NBのミニチュア版として地域の中で生き残ることはできても、それはただ現状に甘んじているだけです。
人々の生活圏が徒歩から自動車、飛行機へと広がって、インターネットの登場で距離という大きな障壁を越えたつながりが生まれるようになった時代だからこそ、私たちのような小規模の醸造家にも、もっとできることがあるんじゃないか、と。細々とでもいいから全国に発信をして、コミュニケーションを広げ、深めていくこと。それが四代目である私の仕事だと考えています」
軽妙で洒脱な語りの端々に、胸に秘めた熱い想いが滲み出る宇佐美氏。その視線の先には、国内に留まらず海外市場への展開も見据え、すでにイギリスやアメリカ、中東諸国からの引き合いも生まれつつある。
「醤油は、今や世界の料理に欠かせない味。テーブルの小瓶を手に取って、和の書を鑑賞する姿を思い浮かべると、楽しくなってくる。味わいも書も、誤った日本を伝えることのないように、私自身も現状に甘んじることなく勉強していくつもりです」
2. <Inside Interview/ value stories of USAMIHONTEN>
宇佐美本店有限会社 代表取締役社長 宇佐美 志都 氏
〜〜「見えないもの」と交信する、その大切さを忘れずに〜〜
老舗と呼ばれる代々の家業を受け継ぎ、重責や荷物を背負わされたと思っている後継者の方も多いかもしれません。ただ、家業ではない大手企業の経営者たちは、自分に与えられた任期である程度、それもできるだけ短期間で、目に見える結果を出さないといけないプレッシャーを抱えています。一方、家業を継ぐ経営者に望まれている本質は、次代へ確実に継承することに尽きます。比較してみると、それぞれの経営者が描き出そうとしている姿には随分と違いがあるな、と感じています。
醤油や味噌は生活用品ですから、こちらから売り込まなくても、なくなれば絶対に買いに来てもらえる。そのせいでしょうか、しっかりと商品に想いを込めて伝えることを、業界全体が疎かにしてきた一面があったかもしれません。
私が父や母から有言、無言に学んだことの一つが、「見えないもの」との交信を常に心がけることの大切さです。醤油を味わっているお客様、手に取って眺めているお客様、その姿を実際に眼にすることがなくても、いつもそこに心を馳せていく。また、「ご先祖様に顔向けできない」という表現がありますが、代々の先人たちも「見えないもの」です。そんな現在のお客様や過去のご先祖様といつも自分が交信し、その存在を思い起こしていれば、昨今の偽装問題なども生じなかったのでは。さらに言えば、次代や次々代のまだ見ぬ後継者たちも、将来の「見えないもの」になるでしょうね。
「人は街道を通じて生きてきた」。これも父から教わった言葉です。現代人は都道府県の行政単位で物事を考えがちですが、実は食をはじめとする文化の土壌は、生身の人が往来する街道にある、と。本州と九州を結び、海外からの船舶も行き交う関門地域は、古来からたくさんの人・モノ・金が行き交い、絶えず情報の受発信が繰り返されていたところ。小倉に支店を置いたのも、それが一番の理由だったようです。そうやって培われてきた豊かな文化を埋もらせることなく、「見えないもの」と交信しながら現代という時代に最大限に発揮していくこと。それが私の使命なんでしょうね。
3.<View Point/不変のstandard>
〜〜「代々初代」〜〜
老舗に限らず、後継者の存在は企業存続への大きな分岐点だが、宇佐美本店もまた、その例外ではなかった。「醸造家にとって、跡取りの長男がいないのは致命的。それが辞める口実になるし、克服するのは想像以上に難しい」と語る宇佐美さん。社長就任を決意した時に、自然と心に湧き上がってきた言葉が「代々初代」だった。
「やろうと決めた以上、継承者であるという使命感だけでなく、自ら発意して始めたという決意を持ちたかったんです。自分の意思で選んだことなら、『親のせいで、この家のせいで…』と、他人のせいにしたり境遇を恨んだりしなくなる。どんなことでも、他人のせいにすることほど不幸なことはありませんから」
そんな宇佐美さんが掲げるのは、「創業百十年のベンチャー企業、始まる」というキャッチフレーズ。「創業」の二文字を、自らの心に深く刻み込もうとする強烈な意識の表れと言える。「家訓として残ってはいませんが、宇佐美本店の110年余を振り返れば、三代がそれぞれに『代々初代』の思いを貫いてきたことがわかる。その積層の上で今、四代目の私が商いをさせてもらっているんだと、ひしひしと感じています」。
お醤油のご用命は「宇佐美本店」までお気軽に
宇佐美本店 四代目 宇佐美 志都