〜 挑戦!国際ビジネス No.149 〜
◆宇佐美本店株式会社 高級調味料を世界の食卓へ!◆
北九州市に本拠地を構える宇佐美本店株式会社は、創業110年を誇る醤油をはじめとした調味料を扱う老舗専門店である。素材の味を包み込むのではなく、素材本来の味を引き出す調味料として長く高級日本料亭の板場で愛されてきた。「日本の味」を、高級料亭にとどまらず国内外の家庭の食卓へと届けるべく、さまざまな取り組みに挑戦している。
継承される伝統の味と市場の拡大
宇佐美本店の起源は、1896年までさかのぼる。創業者兄弟は、名古屋からはるばる台湾に渡り、日本から呼び寄せた蔵人と台湾の人々の総勢約200名で、味噌の醸造を中心とした事業を起こした。その後、福岡県の小倉、山口県の宇部に、支店を開設。現在は、小倉を拠点に、醤油をはじめとした高品質の和調味料の開発と販売を行っている。
三代目である宇佐美正博氏は、東京農業大学醸造科で学び、実直かつ徹底的に味を探求した。その姿勢を押さないころから、日々肌身で学んだ四代目、宇佐美志都氏は、「代々初代」の精神を基に新規分野への挑戦を始める。「料亭の味をより広く、多くのお客様に味わっていただきたい。風味の高い調味料を求める一般家庭の要望を満たしたい」という思いからだ。既存の料亭への業務用販売ルートに加えて、一般家庭の食卓で使えるようにと小売店販売を始めた。調味料の市場は、高品質を求める顧客の増加、地域産品の再評価、物流機能の発達により、拡大している。また、核家族化により、より少量パッケージの調味料が望まれるようになったのである。この市場変化をとらえて、販路拡大を図ったのである。
書家 宇佐美志都 ― その思い
調味料は、料理の味を下支えし、引き立てるという重要な役割を担う。その製法は、職人たちが代々受け継ぎ磨いてきた技術の集積でもある。こうした調味料が持つ奥深さをもっと消費者の伝えたい。そうすれば、より和の調味料を楽しんでもらえるはずだ。―― これが、調味料に託す四代目・志都さんの思いである。
小売ルートの開拓では、他商品との差異化が必要だが、宇佐美本店の調味料が、他の調味料と一線を異にするのは、風味や味わいだけにとどまらない。4代目には、経営者のほかに、書家、デザイナーという顔がある。3歳ころから筆を手にとり、大学でも「書」を修め、書家としてもで著名である。経済産業省や日本木造住宅産業協会の機関誌などの表紙揮毫(きごう)、ファッションブランド「コムサイズム」とのコラボレーション企画による書をモチーフにした浴衣のデザインなど、各方面で活躍している。
高級味付けポン酢「月想ひ」、本橙百果汁酢「恋雫」など新商品を開発し、書の才能を最大限に活用してラベルを作り、同社の持つ高品質の風味・味わいを持つ調味料に付加価値をつけることに成功した。四代目の思いに賛同する料理人、食品業界、高級志向の消費者の支持を得て、商品は、明治屋ストアーをはじめとした高級食材を取り扱う食料品専門店で取り扱われるようになり、またたく間に同社の主力商品となった。
世界のグルメが集まるドバイに進出
新商品が国内で成功を収める傍ら、同社は、海外展開へも果敢に挑戦を始めた。素材の味を調味料によって日本の食文化を継承し、その味を日本の食卓のみならず世界にも伝えていきたいという考えからである。
当初、輸送コストによる小売価格の上昇、手続きの煩雑さなど食品輸出にかかる障壁は大きかった。しかし四代目の広い人脈からこれを打破することに成功する。知人の紹介により中東協力センターとのつながりができたのを機に、中東での販路開拓に目を向けた。中東はこれまでまったく手付かずで、いわば、盲点といってもいい地域だった。中東協力センターとジェトロの協力を得て、ドバイ(アラブ首長国連邦)とリヤド(サウジアラビア)で商談を行った。2008年初春のことである。
ドバイには世界中の富、人材、高品質の商品が集まる。食品においても例外ではない。多くの高級ホテル内には、各国の本場のレストランが軒を連ねる。和食ブームも手伝い、日本食レストランも続々とオープンし、優秀な料理人が腕を振るう。宇佐美本店の調味料が注目を集めるのも当然だろう。淡口醤油「うす霧」や「恋雫」などが、現地の多くの日本食レストランで使われている。日本人駐在員に人気がある「喜作」もその一つだ。
(シェラトンホテル・リヤドのシェフと)
日本の味わいを世界へ ―― さらなる挑戦
挑戦は中東だけではない。富裕層が形成され、急速な市場拡大を見せる中国への進出にも積極的だ。足がかりとして、北九州市が大連に設置したアンテナショップ「日本北九州商品展示販売センター(北九州ギャラリー)」に商品を展示している。
海外への発信には精力的に取り組んでおり、全日空の国際線ファーストクラスでは、「恋雫」を用いたカクテルが提供されている。英国市場協議会と駐日英国大使館は、四代目の書を高く評価し、これをきっかけに同社の商品を贈答品として使っている。また、2009年2月に開催された世界の一流料理人が集う「世界料理サミット2009 TOKYO TASTE」では、同社の和調味料は、「月想ひ」「恋雫」が指定調味料に選ばれ、スペイン料理やフランス料理とコラボレーションするなど注目を集めた。
職人たちの製造技術の集積。それに経営者の書の才能が加わって、日本の文化、そして食の味わいを調味料という形にして発信している。今後も、その歩みは、国内、そして海外へと、着実に浸透していくことだろう。世界中の食卓に届くようにとの四代目の思いをこめて。
(福井 崇泰/ジェトロ北九州)
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宇佐美本店 四代目 宇佐美 志都